昭和39年「七人の孫」(主演:森繁久彌)でシナリオライターとして認められ、同49年の
「寺内貫太郎一家」(主演:小林亜星)をはじめ、数々のホームドラマの脚本や、
エッセイ「父の詫び状」で作家としても脚光を浴びた向田邦子さん。
その作品をTBSの名物演出家・鴨下信一氏により舞台化する、その第二弾。
鴨下氏も会場に来られていましたが、杖を使っておられ時の流れを思い知らされます。
第1部「眠り人形」はホームドラマ的な50分ほどの姉妹モノ。
峰岸徹さん演ずる兄の家(実家)へ、姉(大原麗子さん)と妹(音無美紀子さん)がそれぞれの事情を抱えて訪れる。
なかなか本題を出せない中、妹はついつい「子供の頃はお姉さんのお古ばかりもらっていた。
父はお姉さんばかり可愛がっていた」と常に損な役回りだったグチが出てしまう。
ところが大人になった今では、立場が逆転していることをまだ二人とも知らなかった。
確かに大原麗子さんの演技はお姉さんらしさがあふれ、色々なエピソードも自然に受けとれそうな事ばかり。
今はお金に困る姉、スーパーマーケットが成功して裕福な妹に「金を貸して」とは言いにくい。
ちょっとした気持ちのすれ違いの諸々が、最後はうまくおさまって正に一回完結のドラマのように
終わって行くのでした。
直接のストーリーの間隙を埋めるように、父のいた頃の生活や思い出が挿入され、
向田作品に登場する父のイメージは本作でも一環していたと思います。
ホームドラマ的な親しみ易さの中にあふれる兄弟の情感と庶民感覚。
まるでテレビカメラが切り替わるかのように、茶の間の真ん中にある座卓が
クルクル回るのが可笑しかったです。
第2部は第1部の出演者による朗読。兄の娘役をされた津坂早紀さんのピアノ演奏つき。
単なる普通の朗読とは異なり、俳優の方々が短い解説を加えながら語り継ぐという形。
素朴でもあり、懐かしくもあり、「生活人としての昭和史」としても評価の高い「父の詫び状」から
4作品ほか。
それぞれの語りの個性、声の調子のアンサンブルも心地よく、ここでもくっきり浮かび上がるのは
父親のいた時代、厳格な父と子供心に記憶に残る家族のありし日の思い出です。
最後は客席と一緒に合唱(!)する企画もあって、なかなかファミリー感覚あふれる公演でした。
7年ぶりに舞台を踏んだという大原麗子さんは、テレビの印象と変わらず年齢を感じさせない
可愛さにあふれていました。他のお二人もなかなか達者なところを見せていました。
後方の空席も目立ち、地味な公演ではありましたが、類いまれなる女史の作品を今でも
愛し続ける方々によって、このように演じ続けられるのは素敵な企画だと思いました。
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