「桜の園」〜Bunkamura シアターコクーン〜 '03.1.9 (Thu)
  (Update '03.4.9)


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「世界のニナガワ、待望の新作!
 チェーホフ最後の戯曲が鮮烈に
 現代に蘇る!」

 演劇界には詳しくない小生でもその輝かしい功績は知っている演出家・蜷川幸雄氏。
 何か小難しいとっつきにくさも感じ、氏の演出を見る機会もありませんでした。 まして「滅びゆく貴族たち」を描いた有名作品とはいえ、色々な劇団によって いつもどこかで上演されているように思え、今回の公演も始めはためらっていました。 とはいえ、自分にとっては「蜘蛛女のキス」以来の麻美れいさん、初めての牧瀬里穂さん、 昨年の大河ドラマでの秀吉役も記憶に新しい香川照之さんと出演陣も良し。 鑑賞団体での割引チケットも手に入り、はれて「鑑賞決定」となりました。

 ホールに入ると、ガランとしたステージの奥、黒い壁面の一部が窓になっていて 外の渋谷の景色が見えています。搬入口を開けているようです。
 開演時刻になると何の前触れもなく、舞台上より舞台を前後にさえぎる黒い壁状のセットが シャンデリアと共に降下、応接セットなどが人手によって運ばれ、 この劇の主な舞台となる没落寸前の貴族の館、白い家具に囲まれた室内に生まれ変わります。

 特に難しいストーリーではありませんでした。
 登場人物のキャラクタも役者にぴったり。
 
 存在感ではやはり麻美れいさん。繁栄を謳歌していた頃の貴婦人のたたずまいを残しながらも、 既に金に困る身の上になり、それでも誰かれとなく小銭をふるまってしまう。
 壊れていく家系のはかなさと共に、情熱的な心情を併せ持つ、それでも堕落寸前のリアルな感じを気品をもって 演じていたと思います。
 牧瀬さんも声が良く通り、鍵束を腰にジャラジャラと言わせて主人の留守宅を取り仕切る、 気丈な養女役にはまっていました。
 「桜の園」を手放すきっかけとなる香川照之さんとの恋話しは、 昔ふうの成り行きで哀しさもいまひとつでしたが。

 セットや照明はさすがというか、とにかく素晴らしかったです。
 黒い壁面のあちこちに扉が付いていて、これらの開け閉めで様々な場面に転換して行くのです。 まばゆい太陽光が降り注ぐ天窓、「桜の園」を見渡す大きな窓、舞踏室と客間の間にあるドア、 そして全てを閉じて暗くなった誰もいない最後のシーン。

 これは100年前に発表された作品。
 立派な古典だとしても、栄枯盛衰の様々な状況はいつの時代にもあるもので、 登場人物の勝手な心変わりは、今の自分や回りの人間と共通することが余りに多いように思われました。
 この劇が繰り返し上演される普遍的なテーマ性があるのでしょう。